東京・大阪のイベントで販売した「封筒小説」の完売に伴い、WEB掲載します。
本編とは全く関係がありませんので、箸休め的にご覧ください。
現地でお手に取ってくださった皆さま、ありがとうございました。
■やさしくしないよ
■佐倉 創介 × 小林 イツキ
■R-18
深く、ふかく息を吐く。折り畳まれた指は弱々しく口元に添えられていて、目線は何処でもないどこか遠くに逃がされていた。
その色を帯びた仕草を、崩してやりたいと思った。はあ、とイツキくんはまた、ゆっくり息を吐いた。
「気持ちよかったら、声出していいんですよ」
かたく横一文字に結ばれた唇をほどけさせたくて、言ってみる。イツキくんはふるふると首を振った。
「こ、こんなの、どうってことねえよ」
喘ぎ声なんか出してたまるか。彼は囁くような声で俺を挑発した。左手にはイツキくんが読んでいた文庫本。めずらしく読書なんてしていたものだから、その言葉の通りに褒めたら、なぜか機嫌が悪くなった。売り言葉に買い言葉でくだらない言い合いを続けていたら、なぜかイツキくんは「何をされても本を読み切ってやる」という、変な意地を張り始めた。
抵抗のつもりかもしれないが、頭のわるい彼はいつも自分で自分を追い込んでいる気がする。救いようのない駄犬だ。
首筋から、鎖骨へ。手を差し入れる。びくびくっと身体を震わせながらも、イツキくんは文庫本のページを一枚めくった。さすがに強情だなと感心する。
瞼に軽く口づける。途端、大きな目がぱちっと開く。
「び、びっくりした……」
「どうしてですか」
イツキくんは驚いた表情のまま、瞬きを繰り返している。俺は彼の髪を撫でた。それにイツキくんは、少し困ったような目をした。
「なにか?」
「こういう時だけ優しくすんの、やめろよ」
イツキくんの瞳が、戸惑いを携えてゆらゆら揺れる。駄犬は駄犬なりに、潤んだ目だけはなかなかの見ものだという事実は、俺しか知らなくていい。
「どうもしなくていいんですよ。大人しく、優しくされててください」
「やっ……」
「本、最後まで読むんでしょう」
首筋に唇を当てる。イツキくんは身体を強張らせた。耳に舌を這わす。大きく肩が揺れた。
大袈裟な反応を見せてしまったことが恥ずかしかったのか、イツキくんの頬が赤く色付いた。見んなよ、と嫌そうな顔をされたが、俺に命令しようなんて百年早い。
「かわいい、イツキくん」
イツキくんが、はっと息を飲む音がした。どこまでも不意打ちに弱い。
「あ、頭おかしいんじゃねえのか」
「もちろん、普段は違いますよ。一生懸命、俺を無視しようとしてるのに身体は覚えてしまってるという素直なイツキくんはなかなか良いです」
「へ、へんた……あああぁっ」
「変態に開発されているのは誰ですか」
後ろから覆いかぶさって、胸の突起を人差し指でぐりぐりと潰す。イツキくんの手からぱたん、と文庫本が落ちてしまった。
「やっ、もう、終わり……ふぁっ、あ」
「一度言ったことは守らないと。ほら」
手を伸ばして、文庫本をもう一度イツキくんに握らせる。全てを読み終えるまで止めてやるつもりなんてないし、そういう無駄な意地を張ったことを心の底から後悔させてあげたかった。
「ねえ、イツキくん」
「な、に」
「早く読み終えないと、このまま最後まで床ですることになりますよ」
イツキくんが抗議をしようとしたのを見計らって、指を推し進める。だらしなく口を開き、止まらない嬌声を上げた。
犬畜生は鳴く為に在るのです、とはうまく言ったものだ。